2008年4月5日土曜日

公認会計士協会のインフォメーション 続き

今回の会計士協会のインフォメーションに関し、少し質問を受けた事から、続編を書く事にしました。

まず、これはあくまで「監査人に向けたインフォメーションであり、会計基準の変更でも、金融機関(また一般事業会社)に対する通達でも何でもありません。ぶっちゃけた話が、「会計士諸君! 金融資産の評価-時価の適切性について監査をする際には、現状の市場状況をよく判断、しっかり監査するように!!」と言っているだけですよね。


従って会計基準自体に何ら変更はありません。時価の定義も変えたわけではなく、例えば「気配値」についても言及されてますが、これも従来から何ら変わっていません。もとから時価とは「公正な評価額」の事であり、日本の会計基準からすれば、公正な評価額(→独立第三者の当事者が取引を行うと想定した場合の取引価額)は、以下の2つに分類されます。
①市場価格に基づく価額
②合理的に算定された価額

①の背景は、実際の取引価額(つまり現金の受取、支払価額)が時価であるという考えです。そのため、市場の流動性がない場合(取引したい当事者が非常に少ない状況)、ブローカーの提示価格が本当に「市場価格・実際に現金決済される取引価格」と言えるのか、という議論が出てくるのです。
この点について明確にしたのが今回のインフォメーションであり、現状のような流動性リスクが高い状況では、ブローカーの提示している時価が正しくない場合もある、と言っているんですね。

②については、実は今回のインフォメーションでは深く言及していません。この点については個人的に不十分であると考えている点です。

今回のインフォメーションにおいては、時価の定義として、公正な評価額とは取引価額(現金決済時)であるという事を再確認したかったのだと思います。特に非流動的な市場環境においては、ブローカーの提示する時価と、実際の取引価額が乖離する事が容易に起こりうるため、その事も踏まえたうえで適切に評価を行っている事を監査人として確認するよう警鐘を鳴らしているのです。

(以下、細かい議論。。。)
なお、組込みデリバティブの会計処理に対するコメントですが、これは少し誤解を生むもののような気がします。日本の会計基準の場合、組込デリバティブのリスクが当初元本に影響を与えるか否かがポイントになっているため(US GAAPの影響)、従来は組込デリバティブのリスクが当初元本に影響を与えていないと考えていたとしても、時価が相当程度下落している場合、影響を与えかねない・・・との事。

個人的には、これは会計基準そのものに若干問題点があると思います。本来組込デリバティブはその性質によって会計処理を区分すべきだと思うのですが(概念的にはUSGAAPもIFRSも組込デリバティブが本契約に密接に関連しているか否かで判断する点で一致しています。:当初判断基準)、日本の場合は何故か(???)、USGAAPにおける密接な関連性に対する判定基準をそのまま当初判断基準としてしまっているため、概念論が抜けているんですよね。そのため、組込デリバティブの再判定が必要な例も出てきてしまう。。。(ちなみに国際会計基準でも、一部の例外的事象が生じた場合に再判定する事は許されているんで、特別日本基準がおかしいとも思いませんが。)

ずらずらと書いてしまいましたが、結局会社も、会計士協会も、まだまだ手探り状態で進んでいるのは間違いなく、今後実務がしっかり決まってくるのだと思います。そのような大事な局面において、監査人の役割を適切に果たす、この責任感、そして危機感というものを共通認識として持つ。この事が一番の今回の公表インフォメーションのメッセージなのだと思います。

2008年4月2日水曜日

日本公認会計士協会 「証券化商品の評価等に対する監査に当たって」

公認会計士協会がサブプライム対応という事で、表題の監査留意事項というのを公表しました。正直内容としては、かなり曖昧な内容であり、実務上有益なものと言うよりも、業界としても注意を喚起してますよ!とのアナウンス効果のみを期待したものであるように思います。詳細としては・・・

①サブプライム関連商品、証券化商品について正確な評価が行われる必要がある+監査人としても十分に監査上注意する必要がある
→ごもっともですが・・・・・、ま、前置きという事で。

②証券化商品の評価については、流動性リスクを十分に考慮する必要があること、企業がブローカーから時価を入手している際は、1社だけではなく各社から情報を入手する必要がある。
また、区分処理を行っている組込みデリバティブについては再検討の必要性を十分に留意。
→悲しいですが、以上。

③証券化商品の開示の適切性については、監査人が適切な開示が行われているかを確認する必要がある。
→以上???

という事で、あまりにさっぱりした公表情報にさすがに驚きと悲しみを隠しきれませんでした。出来ることならば、公認会計士協会という立場から考えれば、より深く「時価」についての再定義、具体的な指標の提示が出来ればよかったのかなと思います。また、開示についても、証券化商品から生じるリスクの認識、そのリスク開示の必要性という点まで踏み入ってほしかったというのが本音ですね。